花渡る海

著者:吉村 昭 発行所:中央公論新社

種痘とは、天然痘の予防接種のことである。
(根絶した天然痘ですが、人に対して非常に強い感染力があり
 全身に膿疱ができ、致死率も20~50%あり、治癒しても
 あばたを残し、江戸時代には特に恐れられていた。)

近代医学の祖と呼ばれ天然痘治療でも有名な緒方洪庵。
洪庵の生まれた文化7年(1810年)に、江戸へ向かう新酒
を積んだ千五百石積の観亀丸が難破した。
船頭の平助以下16人が乗った歓亀丸は、時化で舵を失い
広大な海をさまよう浮遊物になってしまう。
流れ流れて、極寒のシベリアに漂着した観亀丸。
分厚い氷の上を歩く一向であったが、平助はじめ9人が凍死。
水主久蔵も3日間氷の中に閉じ込められたが、九死に一生を得る。
運よく日本に捕らわれたロシア人との交換要員となるも、久蔵
だけは、重度の凍傷により足指を切断する手術後のため、
1人残される。執刀医のミハイラの助手になった久蔵は、
牛痘法による種痘で、天然痘を予防できる事に驚愕する。
交換要員として3年ぶりに奇跡的に日本の土を踏む事ができた久蔵は、
天然痘で苦しむ人々を救える種痘の説明とミハイラから餞別にもらった
種痘の道具類の貴重さを訴えたが、日本の役人には相手にされず
歴史のかげに埋もれていった。☆☆☆☆☆

江戸時代は積載量は米で換算した。1石とは、150㎏で1,000合。
1石は、1人が一年間に食べられる量である。
水主・・・船乗りの事

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