野の春

流転の海 第九部
著者:宮本 輝 発行所:新潮社

昭和41年になった。城崎で自殺未遂に終わった房江は
多幸クラブというホテルの従業員食堂の賄い婦として
働きはじめる。元々料理好きの房江には天職のような
仕事となり生き生きとした生活を取り戻してゆく。
大学生になった伸仁はテニス部で汗を流し、また様々な
アルバイトも経験して青春を謳歌する。
森井博美との浮気で別居となった熊吾は、中古車連合会、
はごろも、木俣の高級チョコレートの拡販、
またかかわりある人たちの再就職や相談事にのったりと、
相変わらず忙しい日々を送るのであった。
しかし、糖尿病は確実に進行して熊吾の体を次第に蝕んで
ゆくのであった。
冬の寒い晩に、伸仁に言い過ぎた詫びをするためシンエー
モータープールに帰った熊吾。
しかし、伸仁に会った瞬間に、全身が痙攣して倒れてしまった。
脳卒中で倒れた熊吾は、自分はもう立てない事がわかった。
桜の花びらが舞う中、河内の精神病院に無理やり転院させられ、
まもなく熊吾は最後の時を迎えるであった。☆☆☆☆☆

毎日芸術賞受賞

著者が34歳で書き始めた流転の海、この最終章九巻
野の春の熊吾の死により完結となりました。
著者71歳になっており、実に37年間原稿用紙7千枚の大作
となりました。
あとがきで、何を書きたかったかと問われたら、
「ひとりひとりの無名の人間のなかの壮大な生死病死の劇」と。

関連記事

2022年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  
PAGE TOP